単純承認と法定単純承認

単純承認

第920条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

(1)この手続きを選択した方がいい人
● 明らかにプラスの財産しかない、又は、負債はあるものの、プラスの財産で十分に弁済が可能である相続人。
● 財産も負債も特にない相続人。
● 負債の方が多いが、その超過負債額がわずかであり、相続人の固有財産から不足分を補ってもいいと考える相続人。
● 積極的に責任を負い、被相続人の立場を承継する意志のある相続人。

※注意:自分が受け取る財産が法定相続分どおりなのか、それとも遺言で変更されているか、確認が必要。

(2) 手続きの方法
● 民法は、この単純承認を原則としており(民896、920)、何らの手続も規定されていない。
(相続人が何もせずにおいておけば自動的に単純承認したものと扱われる・法定単純承認
(民921条2号))
● もちろん、単純承認は「意思表示」であるというのが、判例・通説なので、関係者に対し「単純承認した」と表明する事でもよいが、実務上ほとんどのケースが後述する「法定単純承認」である。

法定単純承認(みなし単純承認)

第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条
に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし相続人が相続の放棄をしたこによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りではない。

(ア)処分とは、
● 財産の現状、性質を変える行為を指し、相続財産の売却等の法律行為だけではなく、相続財産である家屋の取り壊しや動産の毀損などの事実行為も含みます。
※その他、どういった行為が「処分」に該当するかは、条文上明確でなく、判例解釈に委ねられています。しかし、最高裁で明確に判断されているものは少数であるため、専門家の意見をしっかり聞く必要があります。可能であれば、まず相続財産には一切手を触れない事が賢明です。
(イ)処分の時期、
● ここでいう処分は、限定承認又は相続放棄前になされた処分のみを指します。限定承認又は相続放棄後になされた処分については、同条3項によって処理される。