限定承認

第922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

条文が少し分かりにくいが、
限定承認とは「相続によって得た財産の限度においてのみ債務及び遺贈を弁済する」との留保をつけ、一切の権利義務を承継する意志表示。
あくまでも、財産も負債も全部相続する。
ただ、負債を支払う義務は相続によって得た財産額分まで。

一見、凄く便利そうですが、現状、注意点や事務処理が煩雑な事もあり実務上あまり使われていないみたいです。
●相続によって得た財産額分を超える債務は「※自然債務」となる。
債務者が自ら進んで債務を弁済すれば有効な弁済となるが、債権者からは履行を訴求できない債務。
●相続人固有の財産から弁済する必要がない。
あくまで、債務の引き当てとなるのは「相続財産に限られる」という意味。
逆に、相続人が固有の財産から、責任がないのに自主的に支払った場合、債務は全て承継されているため、返還請求はできない。

(1)この手続きを選択した方がいい人
●プラスの財産もあるが、負債がいくらぐらいあるのかはっきりせず、債務超過なのかどうか分からない相続人。
●債務超過であるが、相続人にのみ認められる先買権の行使(民932但書)により、特定の相続財産を確実に手元に残したい(事業承継。愛着のあるものがある。)相続人。
●債務超過ではあるが、全員が相続放棄をすると次順位の相続人を巻き込んでしまうため、相続順位を維持したい相続人。
●債務超過であるが、相続放棄していまうと放棄後の財産管理の負担が継続してしまう相続人。

(2)手続きの方法
●熟慮期間内に、相続人全員で共同して管轄裁判所への申述が必要。(民923、家手201条5項)
相続人全員とは、相続放棄をした相続人は含まない。
※実務上は、財産を受け取らない相続人等は相続放棄をさせて、残った相続人で限定承認すべきである、尚、一人でも単純承認する相続人がいれば限定承認は選択できない。
●熟慮期間が相続人によって異なるときは、一番後にくる期限を限定承認の申述期限としてよいとするのが、判例(東京地判昭30.5.6)・通説であり、家裁実務も同様に取り扱っている。
※実務上は、できるだけ一番先にくる期限を基準に申述の準備をするようにする。なぜなら、万が一、後の期限に該当する相続人が単純承認したり、法定単純承認に該当することとなった場合、他の相続人も単純承認せざるを得なくなるため。
●申立書には必ず財産目録を添付しなければならない。(民924)
※この財産目録には判明しているマイナス財産の記載も必要。悪意による財産目録への不記載は法定単純承認事由(民921第3項)に該当する。財産・負債ともに調査しても明らかとならなかった場合は、単に「不明」としてよい。
●管轄裁判所は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所となる(家手201条1項)「相続が開始した地」とは、実務上は最終の住所地が原則。