繰延資産と前払費用【会計上と税法上】

会計上
前払費用の定義(会計上)※中小企業会計指針

一定の契約に従って、継続して役務提供を受けるものの中で、代金は支払い済みだが役務提供はまだ受けていないもの。

長期前払費用の定義(会計上)※中小企業会計指針
一定の契約に従って、継続して役務提供を受けるものの中で、代金は支払い済みだが役務提供はまだ受けていないもののうち、期末日翌日から1年を超えて償却する未経過費用。

繰延資産(会計上)※中小企業会計指針
既に代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用を資産として繰り延べたもの。これは会社法で限定列挙されいる、以下のものである。
①創立費②開業費③開発費④株式交付費⑤社債等発行費
それ以外の税法に規定する繰延資産は長期前払費用等する。後述する。
※なぜ、税法の規定する繰延資産も同じように会計上の繰延資産にしないのか?
要は、会計上は役務の提供を受け効果が将来に渡るだけで換金価値がないのだから資産計上するのはおかしいという言い分、一方、税法上は換金価値がなくても費用の効果が長期にわたるのだから減価償却資産と同様に扱って資産計上しろという言い分。ここで会計側がどうしても資産計上しろと言うなら、長期前払費用等の他の科目にして欲しいという事からこの矛盾を生んでいる。

法人税法上(法施工令14条)
前払費用の定義(法施行令14条2号)
法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供をうけるために支出する費用のうち、その支出する日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの。※会計上と一緒。

前払費用の定義(法施行令14条1号)
法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供をうけるために支出する費用のうち、その支出する日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの。※会計上と一緒。

繰延資産(税法上)
次に掲げる費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの。
※効果が1年以内は当期の費用。
①自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
②資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用
③役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
④製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
上記に掲げる費用のほか、事故が便益を受けるために支出する費用
※上記の費用については、企業会計上の繰延資産ではないため、会計処理においては、
投資その他の資産の区分において長期前払費用として処理される。


【繰延資産と前払費用の判断の実務上のポイント】
実務上は、返金されると言う事は、時の経過に応じて費用化されてるという事なので会計上も税務上も前払費用。返金されないという事は、支出=役務提供完了とみなされるので効果が1年以上のものは、税務上の繰延資産(会計上は長期前払費用)。
1年未満は当期の費用。

【損金算入のタイミング】
前払費用は原則、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金算入。
例外として、短期前払費用(1年以内に提供を受ける役務に係るもの)は、その支払った額に相当する金額を継続して(等質等量)、その支払った日の属する事業年度の損金に算入しているときは、その支払時点で損金算入できる。しかし原価(収益の計上と対応させる必要がある)は、たとえ1年以内であっても支払時点での損金算入は認められない。その他、重要性の原則も考慮

繰延資産は上記の会計上の繰延資産に関しては、一時償却(任意償却)が認められ、償却期間はそれぞれ次の通り。
①創立費:会社成立後5年以内②開業費:開業後5年以内③開発費:支出後5年以内④株式発行費:発行後3年以内⑤社債等発行費:発行後3年以内

税法上の繰延資産に関しては一時償却が認められず、下記の法人税法で定める「支出の効果及び期間」での均等償却になる。
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例外として、取得価額が20万円未満の税法上の繰延資産は「少額繰延資産」として即時償却できる。何度も言うが会計上の繰延資産は一時償却(任意償却)。

例1)更新料は役務の提供が完了し、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用なので税法上の繰延資産だが、20万未満なら全額損金可。
例2)権利金として支払っても、退去の時に返金がされるようなもの(敷金と同様の性質をもつ)に関しては、資産計上(無形固定資産)で経理。しかし大概の場合、返金がされない、いわゆる礼金の同様のモノも多いので、その時点で、繰延資産か無形固定資産に区分できる。
返金されない権利金等は、繰延資産にして、決められた期間で償却していく。20万未満なら全額損金可。※何度も言うが、実務的には契約を解除した場合において、未経過分が返金されない場合は繰延資産。